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三太郎さん
三太郎
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米国の高校で外国語として日本語を選択した著者が日本で大学の教師になるまでの物語。
表題の「鴨川ランナー」は、母語が英語で日本語で小説を書く著者の第一作目だそうです。

小説は「わたし」でも「かれ」でもなく二人称の「きみ」を主語に使っています。ちなみに英語で「You」を使ったら特定の貴方か不特定多数の貴方たちか区別できなくなるから、「きみ」を使うのは日本語らしい仕掛けなのかも。

お話はほぼ著者と等しいような主人公が、米国南部の田舎の高校の外国語の履修科目に日本語を選ぶところから始まります。高校で将来何の役にも立ちそうもない日本語が選べることが驚きですね。

数人しか生徒がいないクラスで主人公は日本人の女性教師から日本の小学校レベルの日本語を教わり、夏休みに京都へ修学旅行に行き、京都の景色に魅せられて、大学進学後も日本語の勉強を続けます。

大学卒業後には同棲していた彼女を置いてきぼりにして、京都で中学校の英語補助教師の職に就きます。仕事は日本人の英語教師のサポートで、日本語が使えることは必要とされていません。学校でも近所でも誰も主人公には日本語で話しかけてくれず、彼は疎外感を募らせます。

同じネイティブの英語教師仲間からは恋人を作れば日本が上手くなるかもと言われますが、彼に近づいてくる日本人女性は英語でしか会話してくれないし、ガイジンと寝るのが目的らしく、中身のある会話は困難でした。

主人公は日本の小説を読みふけるようになり、ある時、谷崎潤一郎の小説に出会います。彼の作品を読み続けるうちに、谷崎がかつて主人公のアパートの近くに住んでいたことに気が付き、その家を覗いていたら、大学で日本文学を教えている富田先生と目が合い、家の中を案内してもらいます。

結局、主人公は大学に入り直し富田教授のゼミで谷崎作品の研究を続け、東京の大学で教員に採用されます。英語がネイティブで日本語が解る人材は大学では引く手あまたでした。


著者がどうして日本語で小説を書くようになったのかは明らかにはされませんが、日本に留まるようになった理由は京都の街と谷崎の作品だったようです。

僕も新入社員の時に英語ネイティブの教師の英語のクラスを体験しましたが、教師は日本語を解さないのが普通のようで、著者のように日本語を身に着けたい人には不向きな仕事だったのかも。

30代の頃に友人夫妻の紹介で僕より少し年下の米国人女性と知り合いましたが、彼女は仏教の研究がしたくて日本の大学へ来たそうです。その後は日本語のできる大学の英語教師として日本で仕事をしています。著者のような米国人は実はそんなに珍しくはないのかもと思いました。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:833 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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