darklyさん
レビュアー:
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頭の中に湧き上がるイメージの鮮烈さといったらこれぞ文学としか言いようがない
山尾さんの新刊は奇妙な構成となっています。「小鳥たち」「小鳥たち、その春の廃園の」「小鳥の葬送」の三つの掌編の間に挟まれる人形作家中川多理さんの人形等の写真。
山尾さんが書きおろした掌編「小鳥たち」のイメージにインスパイアされた中川さんが人形を製作します。お互いが呼応する形で続編の執筆と人形の製作が繰り返され本書となったということです。
【小鳥たち】
「小鳥のやうに愕き易く、すぐに動揺する性質の<水の城館>の侍女たち・・」で始まるこの一連の物語は、西洋風の城及び広大な庭園を舞台にしている。「小鳥たち」と呼ばれる侍女は実際に小鳥となることがあり、その場に応じて正しく形態を使い分けるよう厳しく躾けられている。
【小鳥たち、その春の廃園の】
そして時は流れ未来の世界。<水の城館>は滅び侍女たちにまつわる伝説が残る廃園として観光客に開放されている。道がなく容易に近づくことができない奇怪なアルテミス像を調べるという、後に研究者となる学生に同行した語り手は観光客と共に異常現象に見舞われる。語り手は学生がアルテミス像の撮影以外に何かしたのではないかと疑う。廃園は軍により立ち入り禁止にされた。
【小鳥の葬送】
<水の城館>の老大公妃の死後三日目にして蘇ったという伝説の顛末が語られる。「小鳥たち」は老大公妃が生み出した存在であった。
以前、「飛ぶ孔雀」の書評にも書きましたが同じように山尾さんはあるイメージがあってそこから物語を紡ぎだしていくのではないかと思います。したがって物語全体の説明性についてはそれほど重視していないような気がします。
そのイメージとはこの物語世界での小鳥たちの描写に現れています。
小鳥たちは行儀よく列をなして行動するが、驚くとすぐパニック状態で飛び回るため衝突したり羽が舞い散ったり。
露台の石畳へと着地しつつ小鳥たちはたたらを踏んで羽毛を散らす編み上げ靴の少女と化す。
私のようなおじさんにはこの「小鳥」と「少女」のダブるイメージにとても共感するのです。偏見だと指摘されるのを覚悟で言いますと
集団行動を好み、従順で決して無能ではないが、先を予測したり、抽象的に物事を考えるのは得意ではない。怯えやすく驚くとすぐパニック状態になる。そしてなんともいえず愛らしい。
そして100ページ足らず、しかも写真が入っているので文字はもっと少ない中、読んでいて頭の中に湧き上がるイメージの鮮烈さといったらこれぞ文学としか言いようがありません。前述の通りそもそも連作を予定していたわけでもないにも関わらず断片的なイメージをつなぎ合わせて在りし日の水の城館と小鳥たちを浮かび上がらせる力量は凄い。
ただ、物語の間に挿入された侍女の人形の写真の表情がとてもメランコリックで物語でのイノセンスなイメージとは個人的には少し合いませんでした。山尾さんは絶賛していますので多数の方はそういう評価をされるのかもしれません。
本書はこの薄さにして2,400円程度と決して表面上のコスパに優れているとは言えませんが、既に2回読んでいる私は1回あたり1,200円。これからも何度も読みなおすと思います。1回読めば読み返すこともなく1か月経てばどのような内容か憶えていないような本何冊も買うよりは価値があると思います。
山尾さんが書きおろした掌編「小鳥たち」のイメージにインスパイアされた中川さんが人形を製作します。お互いが呼応する形で続編の執筆と人形の製作が繰り返され本書となったということです。
【小鳥たち】
「小鳥のやうに愕き易く、すぐに動揺する性質の<水の城館>の侍女たち・・」で始まるこの一連の物語は、西洋風の城及び広大な庭園を舞台にしている。「小鳥たち」と呼ばれる侍女は実際に小鳥となることがあり、その場に応じて正しく形態を使い分けるよう厳しく躾けられている。
【小鳥たち、その春の廃園の】
そして時は流れ未来の世界。<水の城館>は滅び侍女たちにまつわる伝説が残る廃園として観光客に開放されている。道がなく容易に近づくことができない奇怪なアルテミス像を調べるという、後に研究者となる学生に同行した語り手は観光客と共に異常現象に見舞われる。語り手は学生がアルテミス像の撮影以外に何かしたのではないかと疑う。廃園は軍により立ち入り禁止にされた。
【小鳥の葬送】
<水の城館>の老大公妃の死後三日目にして蘇ったという伝説の顛末が語られる。「小鳥たち」は老大公妃が生み出した存在であった。
以前、「飛ぶ孔雀」の書評にも書きましたが同じように山尾さんはあるイメージがあってそこから物語を紡ぎだしていくのではないかと思います。したがって物語全体の説明性についてはそれほど重視していないような気がします。
そのイメージとはこの物語世界での小鳥たちの描写に現れています。
小鳥たちは行儀よく列をなして行動するが、驚くとすぐパニック状態で飛び回るため衝突したり羽が舞い散ったり。
露台の石畳へと着地しつつ小鳥たちはたたらを踏んで羽毛を散らす編み上げ靴の少女と化す。
私のようなおじさんにはこの「小鳥」と「少女」のダブるイメージにとても共感するのです。偏見だと指摘されるのを覚悟で言いますと
集団行動を好み、従順で決して無能ではないが、先を予測したり、抽象的に物事を考えるのは得意ではない。怯えやすく驚くとすぐパニック状態になる。そしてなんともいえず愛らしい。
そして100ページ足らず、しかも写真が入っているので文字はもっと少ない中、読んでいて頭の中に湧き上がるイメージの鮮烈さといったらこれぞ文学としか言いようがありません。前述の通りそもそも連作を予定していたわけでもないにも関わらず断片的なイメージをつなぎ合わせて在りし日の水の城館と小鳥たちを浮かび上がらせる力量は凄い。
ただ、物語の間に挿入された侍女の人形の写真の表情がとてもメランコリックで物語でのイノセンスなイメージとは個人的には少し合いませんでした。山尾さんは絶賛していますので多数の方はそういう評価をされるのかもしれません。
本書はこの薄さにして2,400円程度と決して表面上のコスパに優れているとは言えませんが、既に2回読んでいる私は1回あたり1,200円。これからも何度も読みなおすと思います。1回読めば読み返すこともなく1か月経てばどのような内容か憶えていないような本何冊も買うよりは価値があると思います。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:ステュディオ・パラボリカ
- ページ数:104
- ISBN:9784902916416
- 発売日:2019年07月29日
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