darklyさん
レビュアー:
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友情や愛情、ユーモア、文学、映画、歴史あらゆるものが詰まった珠玉の物語。読めば必ず伯爵の魅力の虜になるでしょう。
600ページを超えるこの物語を読んだ今でも伯爵と別れるのが寂しいと思えるほど魅力あふれる伯爵とその物語でした。
帝政ロシアが終焉し貴族たちには過酷な運命が待ち受けていた。アレクサンドル・イリイチ・ロストフ伯爵は死刑とはならなかったが住んでいるメトロポールホテルへ軟禁される。ただし今住んでいるスイートではなく屋根裏部屋であるが。彼はその時32歳、物語は64歳まで続いていく。
「自分の境遇の主人とならなければ、その人間は一生境遇の奴隷になるということ」を胸に伯爵は今までどおりホテルの従業員たちやホテルを訪れる客たちとのふれあいや日常に喜びを見つけ伯爵としての誇りを失わずに生きている。
ソ連時代となりロシア時代の豊かな文化が失われる失望から死を決意することもあったが、ホテルのレストラン<ボヤルスキー>の総料理長のエミール、マネージャーのアンドレイとの信頼と友情、旧友であるミーシカとの再会と別れ、利発で理想主義的な少女ニーナとの不思議な友情、最悪の出会いで始まった女優アンナとの恋愛など前向きに生きている。
そして伯爵に転機が訪れる。理想の社会づくりを夢見て党員となったニーナは結婚し女の子を授かるが夫が強制労働の判決を受ける。ニーナは夫についていくため伯爵にその女の子ソフィアをしばらく預かって貰えないかと懇願する。もちろんニーナはそれきり音信不通となる。
伯爵はわが子のように目に入れても痛くないくらい可愛がり、母親と同じく利発で美しい少女に成長したソフィアはピアノの才能を見出される。伯爵はソフィアの将来を夢見てある賭けに出る。
博学であり思いやりがあり紳士たることを片時も忘れない伯爵の人柄、そしてその周りにいる素晴らしい仲間たちがある意味作者のロシアのイメージであるとすれば、無粋で権威主義的で党に取り入って出世したホテルの支配人はソ連のイメージなのかもしれません。作者はアメリカ人であり伯爵の友人にもリチャードというアメリカ人が出てきます。リチャードは作者の化身であるような気がします。作者はロシアへの敬意、あるいは憧れのようなものをリチャードの伯爵への友情という形で表現したかったのではないかと思います。そして物語の最後にリチャードは決定的な役割を果たすのですがそれは作者自身がこのような役割ができたらという願望ではないかと思います。
伯爵のロシア人の友人で党幹部のオシプは「我々は革命時に自分たちが芸術作品を壊し、街を荒廃させ、自分たちの子孫を殺す残忍で神聖不可侵なものなど何もないという民族だ」という意見に対してアメリカに追いつくことを目標に最大の犠牲を払ってきたのだと言います。
アメリカはソ連の崩壊により事実上覇権を手にしましたが、アメリカの唯一のコンプレックスは国としての歴史が浅い、あるいは歴史の重みがないということをこのセリフに作者が込めているのではないかと思います。そしてそのコンプレックスの裏返しの憧れを伯爵という人物に投影しているのではないかと推測します。
全く違った物語であるにも関わらず読んでいるときに伯爵のイメージで浮かんできたのがハンニバルレクターです。伯爵は軟禁状態、ハンニバルは牢屋にいながら、その豊かな精神世界によってある意味人生を楽しんでいるところや表面上は紳士然としながら頭の中はフル回転しているところがダブります。もちろんその精神活動のアウトプットは真逆ではありますが。映画化されたあかつきには必ず観に行きたいと思っています。
帝政ロシアが終焉し貴族たちには過酷な運命が待ち受けていた。アレクサンドル・イリイチ・ロストフ伯爵は死刑とはならなかったが住んでいるメトロポールホテルへ軟禁される。ただし今住んでいるスイートではなく屋根裏部屋であるが。彼はその時32歳、物語は64歳まで続いていく。
「自分の境遇の主人とならなければ、その人間は一生境遇の奴隷になるということ」を胸に伯爵は今までどおりホテルの従業員たちやホテルを訪れる客たちとのふれあいや日常に喜びを見つけ伯爵としての誇りを失わずに生きている。
ソ連時代となりロシア時代の豊かな文化が失われる失望から死を決意することもあったが、ホテルのレストラン<ボヤルスキー>の総料理長のエミール、マネージャーのアンドレイとの信頼と友情、旧友であるミーシカとの再会と別れ、利発で理想主義的な少女ニーナとの不思議な友情、最悪の出会いで始まった女優アンナとの恋愛など前向きに生きている。
そして伯爵に転機が訪れる。理想の社会づくりを夢見て党員となったニーナは結婚し女の子を授かるが夫が強制労働の判決を受ける。ニーナは夫についていくため伯爵にその女の子ソフィアをしばらく預かって貰えないかと懇願する。もちろんニーナはそれきり音信不通となる。
伯爵はわが子のように目に入れても痛くないくらい可愛がり、母親と同じく利発で美しい少女に成長したソフィアはピアノの才能を見出される。伯爵はソフィアの将来を夢見てある賭けに出る。
博学であり思いやりがあり紳士たることを片時も忘れない伯爵の人柄、そしてその周りにいる素晴らしい仲間たちがある意味作者のロシアのイメージであるとすれば、無粋で権威主義的で党に取り入って出世したホテルの支配人はソ連のイメージなのかもしれません。作者はアメリカ人であり伯爵の友人にもリチャードというアメリカ人が出てきます。リチャードは作者の化身であるような気がします。作者はロシアへの敬意、あるいは憧れのようなものをリチャードの伯爵への友情という形で表現したかったのではないかと思います。そして物語の最後にリチャードは決定的な役割を果たすのですがそれは作者自身がこのような役割ができたらという願望ではないかと思います。
伯爵のロシア人の友人で党幹部のオシプは「我々は革命時に自分たちが芸術作品を壊し、街を荒廃させ、自分たちの子孫を殺す残忍で神聖不可侵なものなど何もないという民族だ」という意見に対してアメリカに追いつくことを目標に最大の犠牲を払ってきたのだと言います。
最大の犠牲を払ってだ!しかし、アメリカ人の達成した世界もうらやむ偉業は、なんの犠牲も払わなかったのか?彼らの兄弟であるアフリカ人に尋ねてみたらいい。さらに、輝かしい摩天楼を設計したり、ハイウェイを建設したりした技術者たちが、邪魔になる美しい住宅を跡形もなくするのを少しでも躊躇したと思うかね?請け合ってもいいがね、アレクサンドル、彼らはダイナマイトを仕掛けてみずから爆破したんだ。前に言ったように、我々とアメリカ人は今世紀の残りをリードするだろう。なぜならば、過去にかしづく代わりにそれを払いのけることを学んだのは、我々とアメリカ人だけだからだ。だが、アメリカ人が彼らの愛する個人主義からそうしたのに対して、我々は公益のためにそれを試みている
アメリカはソ連の崩壊により事実上覇権を手にしましたが、アメリカの唯一のコンプレックスは国としての歴史が浅い、あるいは歴史の重みがないということをこのセリフに作者が込めているのではないかと思います。そしてそのコンプレックスの裏返しの憧れを伯爵という人物に投影しているのではないかと推測します。
全く違った物語であるにも関わらず読んでいるときに伯爵のイメージで浮かんできたのがハンニバルレクターです。伯爵は軟禁状態、ハンニバルは牢屋にいながら、その豊かな精神世界によってある意味人生を楽しんでいるところや表面上は紳士然としながら頭の中はフル回転しているところがダブります。もちろんその精神活動のアウトプットは真逆ではありますが。映画化されたあかつきには必ず観に行きたいと思っています。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:624
- ISBN:9784152098603
- 発売日:2019年05月23日
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