Yasuhiroさん
レビュアー:
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「f植物園の巣穴」の続編であり、イタイ話であり、螺旋プロジェクト的でもあり。前作から続いた程よくゆる~い話の流れが後半滞ったのが惜しい。
梨木香歩さん五年ぶりの新作は「f植物園の巣穴」の続編です。前半のまったりしたユーモアは楽しめましたが、後半
主人公は「f植物園の巣穴」の主人公佐田豊彦から三代降った子孫たち、
佐田 山幸彦(通称山彦)
佐田 海幸比子(海子)
鮫島 宙幸彦(宙彦)
の三人。この日本神話の海彦山彦にちなんだ(本人にとっては甚だ迷惑な)名前をつけさせた張本人でこの物語のキーマンとなるのは 、前作「f植物園の巣穴」の主人公佐田豊彦が巣穴(の夢)から戻って妻を大事にするようになってからもうけた子供、佐田藪彦です。
とにかく代がこれだけ降っているので、また佐田家の遠い親戚鮫島家や山幸彦の母方の家系も絡んでくるので、しばらくは把握が大変です。家系図をメモりながら読み進めるのが吉です。
そんな面倒な事したくないぞ!という方のために、わたしの見事な家系図を画像に貼っておきます。(自分で言うな的な)
さて、物語はこの佐田家の子孫たちが「非常な不幸に見舞われている」ところから始まります。とにかく「痛い」のです。そして螺旋プロジェクトみたいなんですが、「山」彦と「海」子はソリが合わないのです。
まず豊彦に一番似ている山彦は、海子に言わせれば陰険で小心、鬱陶しいほどいつも敬語で話す、そして元々鬱で頭痛・腰痛持ち、それに最近四十肩(本人曰く三十肩)と頚椎ヘルニアが加わり、激痛でにっちもさっちも行かなくなっている、という悲惨な状態。
一方従妹の海子は山彦に言わせればガサツで単純で口が悪い。階段から落ちあちこち痛いと思ったら難病指定のリウマチ性多発筋痛症という診断がくだる。
この、なんで自分達だけが、というところから、祖父の藪彦がつけた自分達の名前にもつい愚痴が出る始末。
そんなところへ、遠方の旧地名椿宿(つばきしゅく)にある実家の店子から「賃貸契約を打ち切りたい」という手紙が舞い込みます。
そしてその差出人に山彦は驚きます。「鮫島宙彦」という名前だったから。そして中の書類を見てもっと驚く。戸籍名「鮫島宙幸彦」だったから。
早速山彦は海子に電話します。性格上予想されるように海子はあんまり驚かない。それより痛みをどうかしたら、私が通っている鍼灸院を紹介したげる、と言われてしまいます。
この二人の会話は螺旋プロジェクトに入れたかったくらい面白いです。
そしてここから、思いっきり自己中の母野百合(これがまた面白い)の祖母(で叔母百合根宅で寝たきり余命あと一週間の)小百合が、やってきた山彦に、佐田のおじいさん(亡き藪彦)が「家の後始末」やら「稲荷に油揚げを」やらのお告げをしたよと語る話を挟んで、山彦はいよいよ海子に教えられた「仮縫鍼灸院」へいくことになります。
カリヌイ、アヤシゲもいいところですが、実際その鍼灸院の先生は白髪白鬢の老人で絵に描いたように怪しい風貌であり、おまけにその双子の妹亀子(かめし)は霊能力者。。。
私なら逃げて帰りそうですが、当然ここはこの「亀シ」が話に深く関わってきます。痛みの原因は実家にあるし稲荷に油揚げは必要、山彦が行くのならついていくという。私なら丁重にお断りするところですが、そこはそれ、やっぱり二人連れで出かけるのですね。
で、途中で運良くというか、亀シの霊感というか、話の都合上というか、亀シがトイレを探してたどり着いた喫茶店「椋の木」をやっていたのが宙彦の母鮫島竜子と妊娠中の宙彦の妻泰子(たいこ)なのでした。
この辺りの超御都合主義的展開もとっても面白い。おまけに今回は夢ではない。ただ、一人だけいない奴がいる、そう、宙彦です。「癇が強くて放浪癖がある」という設定ですが、なんと、妻が妊娠した途端、家を出て行方不明なのです。なんという男。。。
もちろん、途中で挟まれる藪彦創作の「宙幸彦の冒険」という海彦山彦を自己流にアレンジした話の通り、終盤で連絡は取れ、やはりこの男がキーマンであったか、ということにはなります。ちなみに藪彦がこういう話を書いた裏には、例の水子の道彦が長男扱いされることへの鬱屈があったのでした。やれやれ。
問題はこの間、椿宿の実家に辿りついてからの話です。というか、これが本題なのですが、そこはかとないユーモアはあっても基本マジメ路線なのですね。
「f植物園の巣穴」でも一つのテーマであった
そして
さらには曽祖父の書き残した「f植物園の巣穴にて」という書きおきがみつかります。
とっても面白そうじゃないか、と思わるかもしれませんが、「f植物園の巣穴」から始まった面妙なストーリーにきっちりとした落とし前をつけなければならなかったところにこの物語の「無理」があるのではないかと思うのです。
真面目になると、治水の話ではありませんが、前作から本作前半にかけてののらりくらりの程よい流れが滞る。よって宙幸彦の説明も今ひとつ面白くないし、それに対する山彦の返事も、痛みの結末も、イマイチ感が否めませんでした。
ただ、これは「f植物園の巣穴」の方が好みであった一読者の意見です。あっちを「フザケンナ」と思われた方にはこの「椿宿の辺りに」の方があうのではないか、と思います。まあ、それにしたって摩訶不思議系であることには間違いないんですけどね。
非常な不幸に見舞われている佐田家の子孫の原因を実家と椿宿全体の治水の話に結びつけていくあたりは摩訶不思議系ファンタジスタ梨木香歩さんにしては真面目にまとめすぎており、肩の痛みを必死にこらえながら痛い話を執筆された梨木さんには申し訳ないのですが、「流れが滞っている」感が否めませんでした。
主人公は「f植物園の巣穴」の主人公佐田豊彦から三代降った子孫たち、
佐田 山幸彦(通称山彦)
佐田 海幸比子(海子)
鮫島 宙幸彦(宙彦)
の三人。この日本神話の海彦山彦にちなんだ(本人にとっては甚だ迷惑な)名前をつけさせた張本人でこの物語のキーマンとなるのは 、前作「f植物園の巣穴」の主人公佐田豊彦が巣穴(の夢)から戻って妻を大事にするようになってからもうけた子供、佐田藪彦です。
とにかく代がこれだけ降っているので、また佐田家の遠い親戚鮫島家や山幸彦の母方の家系も絡んでくるので、しばらくは把握が大変です。家系図をメモりながら読み進めるのが吉です。
そんな面倒な事したくないぞ!という方のために、わたしの見事な家系図を画像に貼っておきます。(自分で言うな的な)
さて、物語はこの佐田家の子孫たちが「非常な不幸に見舞われている」ところから始まります。とにかく「痛い」のです。そして螺旋プロジェクトみたいなんですが、「山」彦と「海」子はソリが合わないのです。
まず豊彦に一番似ている山彦は、海子に言わせれば陰険で小心、鬱陶しいほどいつも敬語で話す、そして元々鬱で頭痛・腰痛持ち、それに最近四十肩(本人曰く三十肩)と頚椎ヘルニアが加わり、激痛でにっちもさっちも行かなくなっている、という悲惨な状態。
一方従妹の海子は山彦に言わせればガサツで単純で口が悪い。階段から落ちあちこち痛いと思ったら難病指定のリウマチ性多発筋痛症という診断がくだる。
この、なんで自分達だけが、というところから、祖父の藪彦がつけた自分達の名前にもつい愚痴が出る始末。
そんなところへ、遠方の旧地名椿宿(つばきしゅく)にある実家の店子から「賃貸契約を打ち切りたい」という手紙が舞い込みます。
そしてその差出人に山彦は驚きます。「鮫島宙彦」という名前だったから。そして中の書類を見てもっと驚く。戸籍名「鮫島宙幸彦」だったから。
早速山彦は海子に電話します。性格上予想されるように海子はあんまり驚かない。それより痛みをどうかしたら、私が通っている鍼灸院を紹介したげる、と言われてしまいます。
この二人の会話は螺旋プロジェクトに入れたかったくらい面白いです。
そしてここから、思いっきり自己中の母野百合(これがまた面白い)の祖母(で叔母百合根宅で寝たきり余命あと一週間の)小百合が、やってきた山彦に、佐田のおじいさん(亡き藪彦)が「家の後始末」やら「稲荷に油揚げを」やらのお告げをしたよと語る話を挟んで、山彦はいよいよ海子に教えられた「仮縫鍼灸院」へいくことになります。
カリヌイ、アヤシゲもいいところですが、実際その鍼灸院の先生は白髪白鬢の老人で絵に描いたように怪しい風貌であり、おまけにその双子の妹亀子(かめし)は霊能力者。。。
私なら逃げて帰りそうですが、当然ここはこの「亀シ」が話に深く関わってきます。痛みの原因は実家にあるし稲荷に油揚げは必要、山彦が行くのならついていくという。私なら丁重にお断りするところですが、そこはそれ、やっぱり二人連れで出かけるのですね。
で、途中で運良くというか、亀シの霊感というか、話の都合上というか、亀シがトイレを探してたどり着いた喫茶店「椋の木」をやっていたのが宙彦の母鮫島竜子と妊娠中の宙彦の妻泰子(たいこ)なのでした。
この辺りの超御都合主義的展開もとっても面白い。おまけに今回は夢ではない。ただ、一人だけいない奴がいる、そう、宙彦です。「癇が強くて放浪癖がある」という設定ですが、なんと、妻が妊娠した途端、家を出て行方不明なのです。なんという男。。。
もちろん、途中で挟まれる藪彦創作の「宙幸彦の冒険」という海彦山彦を自己流にアレンジした話の通り、終盤で連絡は取れ、やはりこの男がキーマンであったか、ということにはなります。ちなみに藪彦がこういう話を書いた裏には、例の水子の道彦が長男扱いされることへの鬱屈があったのでした。やれやれ。
問題はこの間、椿宿の実家に辿りついてからの話です。というか、これが本題なのですが、そこはかとないユーモアはあっても基本マジメ路線なのですね。
「f植物園の巣穴」でも一つのテーマであった
イエノチスイから椿宿の間違った治水、さらには大昔からの川の氾濫、大昔の南海トラフ大地震、火山の噴火と続く災害の影響は今でも残っており、地方全体の治水が必要なのだというでかい話になってきます。
そして
稲荷に油揚げの方は、この実家で起こった江戸時代の家老一家の集団自害という悲惨な事件、佐田家のそもそもの由来の方へと話が進んでいきます。
さらには曽祖父の書き残した「f植物園の巣穴にて」という書きおきがみつかります。
とっても面白そうじゃないか、と思わるかもしれませんが、「f植物園の巣穴」から始まった面妙なストーリーにきっちりとした落とし前をつけなければならなかったところにこの物語の「無理」があるのではないかと思うのです。
真面目になると、治水の話ではありませんが、前作から本作前半にかけてののらりくらりの程よい流れが滞る。よって宙幸彦の説明も今ひとつ面白くないし、それに対する山彦の返事も、痛みの結末も、イマイチ感が否めませんでした。
ただ、これは「f植物園の巣穴」の方が好みであった一読者の意見です。あっちを「フザケンナ」と思われた方にはこの「椿宿の辺りに」の方があうのではないか、と思います。まあ、それにしたって摩訶不思議系であることには間違いないんですけどね。
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馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8
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- 出版社:朝日新聞出版
- ページ数:304
- ISBN:9784022516107
- 発売日:2019年05月13日
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