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ゆうちゃん
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映画「嘆きのテレーズ」の原作。ゾラの初期の作品で有名な叢書の範疇ではなく独立した作品、主人公テレーズとその不倫相手のローランの暗い欲望がありのままに描かれる作品、
ゾラの初期の小説。マルセル・カルネが映画化して、日本では「嘆きのテレーズ」と言う邦題名で知られている。ゾラが、ある架空の一家族の顛末を生涯に渡って書き続けたルーゴン・マッカール叢書とは別の独立の作品。

主人公のテレーズは、カミーユとの結婚生活に倦んでいた。彼はパリのちんけな小間物屋の病弱な息子でオルレアン鉄道に勤めている。テレーズは、カミーユの従妹(カミーユの母・老ラカン夫人の母の兄の子)で、老ラカン夫人の兄のドガン大尉が2歳の時に置いていった。食うに困るという生活ではなかったが、健康なテレーズは病弱なカミーユと一緒に主に家の中で暮らす生活には飽き足りなかった。カミーユとテレーズの結婚も、自分の老後を心配した老ラカン夫人がお膳立てしたものであった。
つまらない夫婦生活に登場したのがカミーユの学校時代の友人ローランである。彼は、弁護士になると言って田舎の父を騙し、暫くは画業仲間と遊び暮らしていたが、金も尽きてたまたまカミーユと同じオルレアン鉄道に勤めていた。ある晩カミーユがローランを連れて帰ると、一方は潤いのない生活からの脱出の望みをかけ、ローランは性欲の処理にテレーズを使っていた。ローランが主に勤務先を早引けすることで、ふたりは大胆にもラカン家の営む小間物屋の2階、外階段のあるカミーユとテレーズの寝室で逢瀬を重ねていた。ところが、ローランの早引けが上司の癇に障り、彼は休みをとれなくなる。ふたりは次第にカミーユが邪魔になってきた。ある日、三人でパリ郊外に出かけたが・・・。

解説には「ゾラはテレーズとローランという人獣を通じて人間の機能が愛欲によってどのように破壊されるかを生理学的に追求した」とある。現代では枯れたテーマとなってしまったが、少し前のバルザックの時代であればここまで書けなかったのではないかと言う場面がかなりある。そう言う意味では愛欲をテーマにした小説の現代版の祖と言える作品かもしれない。ゾラのこのような人間探求の態度は自然主義と呼ばれているらしいが、人間の描写としては、欲や恐怖の感情の部分だけが切り出されている感じである。一方で情景描写については、小間物屋のあるポン・ヌーフ小路の様子や遊びに行く郊外の描写など細かい。訳文は読みやすく、上巻も160頁と純文学の中では簡単に読める部類に入る。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1689 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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