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三太郎さん
三太郎
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津村記久子のサッカー熱は本物なのかも知れない、と思わせるほど細部に凝った、架空のJ2リーグの最終節での熱戦を描く11編の短編集。
これは津村記久子氏がJ2リーグ所属の架空の22チームの最終節の様子を描いた小説だ。日本のプロサッカーリーグは現在、上位からJ1、J2、J3とランク分けされており、J1-J2間とJ2-J3間は入れ替えが行われている。だからJ2に所属するチームの中には最終節の結果によってJ1に昇格するチームもあればJ3へ降格するチームもある訳だ。最終節には悲喜こもごもの試合が繰り広げられる。昇格は3チーム(内1チームはプレーオフの勝者)が認められるが、降格は1チームだけなので最終節はよりシビアだ。

僕自身はJリーグ発足当時から現在のJ1横浜Fマリノス(元日産FC)が贔屓だった。理由は天才MF木村和司のファンだったからで、ファンになった理由は日本リーグ時代にあったW杯メキシコ大会アジア最終予選(1985年)での彼の目の覚めるような伝説のフリーキックを実況放送で観てしまったからだった。2003年のマリノスのJ1優勝の時はゴール裏で優勝決定の劇的な瞬間を見守った。といってもいわゆるサポーターではない。横浜に住んでからはたまにホームゲームをゴール裏で観る程度だった。最近はすっかりご無沙汰しているが、横浜Fマリノスは幸運にもまだ一度もJ2への降格を経験していない。

さて、この作品は新聞の連載で、1年をかけて架空のJ2の22チームの最終節の試合(11試合)とリーグ昇降格をかけたプレーオフの様子を描いていく。と言っても試合内容よりはそのチームのサポーターのエピソードを中心に描いている。つまり11試合に11人の主人公がいて、それ以外にも主人公の家族や職場の同僚や相手チームのサポーターが物語に絡んでくる。彼らは必ずしも自分の地元のチームを応援してるとは限らない。好きだった選手の移籍先に応援に行くようになったり、元恋人が応援していたチームを別れた後も応援していたり・・・家族で別々のチームを応援したりすることも。皆さん、アウェーの試合にも応援しに行くのでその熱心さには驚かされる。

(ところで、試合の描写のなかに、センターサークル付近からのフリーキックが入って得点というシーンがあって、ほんまかいなと叫んでしまいそうになった。でも昨年のドイツの3部リーグで実際あったとか。GKのミスと思われますが、普通は入らないだろうな・・・)

この小説がすごいのは設定のきめ細かさだ。登場するJ2の22チームは実在しないが、現在はまだJリーグのチームが存在しない町を全国からバランスよく選んで、チームのエンブレムやチームマスコットをその土地の名物と絡めて設定してある。特にエンブレムは22チーム分すべて作り込んであるという凝り様だ。例えば・・・鯖江アザレアSCのエンブレムはつつじの花と眼鏡のフレームだし、ヴェーレ浜松のはウナギだし、奈良FCは無論鹿だ。

第9話は松江のチームを応援する孫が千葉の松戸のチームを応援する祖母を島根に招待して仲良く一緒に観戦する話で、他にもほのぼのとする話が多いが、中には昇格・降格が絡むシビアな試合もある。第8話はJ1への自動昇格がかかったヴェーレ浜松とJ3への降格がかかったモルゲン土佐の試合を各々浜松と土佐のサポーターである二人の女性が一緒に観戦する話だ。

エピローグではJ2からJ1への昇格プレーオフでこれまで登場したサポーターの何組かが再登場する。


最後に余談ですが、実在のJ1リーグの2003年の横浜Fマリノスの最終節の試合は、試合開始まもなく相手に先制ゴールを許し、さらにGKが一発退場になって、残りの時間を10人で戦ったので、後半のアディショナルタイムでの大逆転により優勝が決まった瞬間は、さすがに僕もアドレナリンが出まくっていたと思います。あれ以上に劇的な試合を体験したことはありません。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:830 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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