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ぽんきち
レビュアー:
戦争の時代を生き、死んでいった、いくつかの浮遊する「魂」たちの物語
ゴースト=幽霊が出てくる7つの短編からなる連作集である。
いずれのゴーストも、おどろおどろしい怨念は残さない。
どこか儚く、かすかに可笑しく、ひやりと淋しく、なぜか懐かしい。
そんな7つの幽霊譚。

「原宿の家」は、主人公Wの語る、昔の女の物語。古家の留守を預かる1人の女。若かりし日のWは謎めいた女にのめり込み、通い詰める。和洋折衷様式のその家の謂われは、そして女の正体は。雨月物語のようでもあり、聊斎志異のようでもある。整合性のなさがそこはかとない不安を誘う。
「ミシンの履歴」のゴーストは人ではない。1つのミシンを軸に語られる戦中戦後史。ミシンがなくした心臓とは何か。著者の綿密な取材が、昭和の風俗を生き生きと描きだす。
「亡霊たち」は、比島で従軍した「おじいちゃん」の「リョウユー」が見えるようになってしまった孫娘の物語。生前の「おじいちゃん」は誰と話していたのか? リョウユーが持って行ってしまったものは何だったのか。

出色は「きららの紙飛行機」。
戦後、浮浪児として生き、交通事故で死んだケンタが、現代ネグレクトされているきららと過ごす1日。一方は、親兄弟と死に別れ、上野の雑踏で必死に生きようとしていた男の子。他方は、水商売の母から最小限のお金をもらい、ひとりぼっちでアパートで生きる女の子。精一杯背伸びして裏社会の隠語を使うケンタと、まだ言葉の覚束ないきららの会話は噛み合うようで噛み合わない。その様がおかしくもかなしい。
きらきらと楽しい遠足のような2人の時間は長くは続かない。虚空に再び消えざるを得ないケンタの思いが悲しい。きららは、この後、無事に成長できるのだろうか。

最終話の「ゴーストライター」は、「ゴースト」の持つ、言うに言われぬやるせなさを代弁しているかのようである。
なるほど、この世には、誰にも知られずに死に、誰にも思い出されないゴーストが山ほどいることだろう。そんな小さな囁きに耳を傾けるような密やかな怪異譚である。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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