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星落秋風五丈原
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もうひとりの「戦場のピアニスト」
 冒頭はNYパレードのシーンから始まる。「一体誰を祝うパレードなのか」という問いに答えて紹介されるのがタイトルの人物、ヴァン・クライバーンだ。

 第二次大戦で同志として戦ってから、米ソが敵同士になり東西冷戦時代になるまではあっという間だった。独裁者スターリンの死によって、西側諸国に変わった所を見せたいと思いつつ、自国の揺るがぬ優位も示したい。そんなソ連首脳陣の意図が結実したのが第一回チャイコフスキー・コンクールだ。ところが、事もあろうにそのコンクールでアメリカから来た若者が一等賞を取ってしまった!ドラマにするにはまさにうってつけの題材だ。直近のオバマ大統領まで歴代大統領に招待されていることからも、彼の偉大さがわかる。

 米ソは相変わらず宇宙開発競争や世界のどこかで代理戦争を繰り広げていたが、彼だけは両国から愛された。政治的野心とは無縁で、純粋に音楽を愛したところも愛された理由だろう。東西冷戦で見えない敵意が飛び交っていたはずなのに、国を意識せず素直に好意を寄せられる人物がいた事は、米ソ双方にとって幸せな事だったはずだ。但し奉仕精神に富んだ彼は、言われるままにコンサートやレコーディングに精を出し、70年代後半とうとう燃え尽きてしまう。ここで押しつぶされず80年代に再び復活したのは彼の実力故だ。

 クライバーンの生涯のみならず、米ソの状況も併せて述べていたためかなりのボリュームになっている。老獪な政治家のイメージが強かったフルシチョフも、彼の前ではいい叔父さんになっていて意外だった。

ナイジェル・クリフ著書
『ヴァスコ・ダ・ガマの「聖戦」: 宗教対立の潮目を変えた大航海』
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2328 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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この書評へのコメント

  1. Yasuhiro2018-02-16 09:36

    こんにちは、懐かしく楽しく読ませていただきました。後聴きではありますが、若い頃はロックばかり聴いていた私でさえ、クライバーンのチャイコとラフは持っていましたし、今でも引っ張り出して時々聴きます。

    中村紘子さんも彼はアメリカという国につぶされた、と語っておられたように記憶しています。冷戦の犠牲者の一人なんでしょうね。

  2. 星落秋風五丈原2018-02-21 23:36

    こんばんは。コメントありがとうございます。評伝を読む限りでは国にうまく利用されながら自分のやりたい事を実現していくというような器用な人ではなかったようですね。

  3. No Image

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