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Wings to fly
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「友情」という言葉の中に存在する正負の感情。それを掬い上げる手際の見事さ、ストーリー展開の鮮やかさに、感嘆せずにはいられない。 #はじめての海外文学 vol.3
本書『リラとわたし』は、4部構成の<ナポリの物語>の第1部である。ふたりの女性の60年に渡る友情を描いたこのシリーズ、全世界で累計550万部を超えるベストセラーなのだそうだ。人気がある本が必ずしも感動をくれるわけではないのだが、この作品には度肝を抜かれた。自分の中にある、人に見せたくない感情が白日のもとにさらけ出される。優越感と卑下に焦り、女が女に対して感じる気持ちに心が疼く。けれど、ストーリーは心を掴んだまま放してくれない。

66歳のエレナは、幼馴染の友人リラが行方不明になったことを知る。リラが自ら仕組んだ事と見破ったエレナは、腹立たしげに「今度は負けないわ、見てなさい。」と呟くとコンピューターの電源を入れた。エレナが綴り始めるのは、リラと「わたし」の物語である。第1部である本書には、幼いふたりの出会いから青春時代までが描かれる。

1950年代のナポリの裏町、靴職人の娘リラはその激しい気性で人に反感を抱かせ、市役所案内人の娘エレナはその穏やかな健全さで人に安心感を与える。性格は正反対だが、育つ環境と頭の良さは同じ。家は常に貧しく、家庭内暴力は当たり前で、親は教育や教養に価値を認めない。女性と子どもの地位が極めて低く将来の夢も描けない生活の中で、ふたりはお互いの存在に支えられながら思春期を迎える。

ふたりは親友でライバルだ。自分に無いものへの羨望が妬ましさを呼び、優位に立って見下したくなる。絶対負けたくないけど到底かなわない、だから傷つき、それを相手に気取られまいとする。なんとも複雑な競争心を抱きながらも、いざという時にふたりは頼り合い助け合う。絶対的な信頼の絆と、消し難い嫉妬心。この無意識な正負の感情が、リラとエレナの青春に鮮烈な光と影を投げかける。「友情」の中に存在する気持ちを掬い上げる著者の手際の見事さに、感嘆せずにはいられない。

ヒラリー・クリントンが2016年の大統領選挙を戦いながら本書を読んだ、というエピソードが「あとがき」に記されていた。ヒラリーさんは、“読みだしたら催眠術にかかったように夢中になり、他に何も手につかなくなった。選挙活動に差し支えるので、2巻目以降はなんとか我慢している”と言ったそうだ。読めばわかる、その気持ち。私も未訳の2巻目の刊行を、心の底から待ち望んでいる。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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