三太郎さん
レビュアー:
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堀江さんが2016年に上梓した中編小説。フランスが舞台の、ある不思議な詩人をめぐる物語でした。
堀江敏幸さんが2009年から2015年まで書き継いで出来上がった中編小説。主人公のわたしは著者の分身みたいだ。
主人公は若い頃にフランスへ留学していた。パリの蚤の市で見つけた使用済みの古い絵葉書は何の変哲もない民家を撮った白黒写真で、裏の通信欄に10行の前衛的な詩の様なものが几帳面な字で書かれてあった。主人公はその詩のようなものに心を惹かれ、訪仏の度に同じような絵葉書を探し求めた。
絵葉書の発信者はフランス西南部の町に住む男性で宛先はフランス北部の町にすむ女性らしかった。二十年かけて何枚かの絵葉書が見つかり、すべてに異なる10行の詩が記されていた。ある蚤の市で出会った男からはその詩人と思われる肖像写真と男の住む地方の商工会議書の年報を買い取ったが、その年報には余白にやはり同じ筆跡で詩が書かれていた。
物語はこの詩の作者のプロフィールが次第に明らかになって行く過程を描いているが、詩の謎や受け取りての女性についての謎のすべてが明らかにされていく訳ではない。
詩人の男は会計士であり、第二次大戦中には対独レジスタンスに関わっていたらしい。詩人に関する情報がわずかしか得られないのは、対独レジスタンスの間に機密保持のため手紙や写真をすべて燃やしてしまったからだった。
詩人に関するエピソードもあるが、主人公がフランス滞在中に出会った人々との交流に関するエピソードが興味深い。主人公が泊まった安ホテルがアルジェリア人家族の経営で、そこのレストランで出されるクスクスがとても美味いことや、主人公が最初の訪仏の際にフランスの核関連の会社に頼まれて日本語で書かれた原子力関係の書類の翻訳をしたこと、その会社が福島での原発事故の際に訪日したことなど。
著者の文章には不思議なユーモアもある。かつてフランス滞在中に知り合った同年代の女性のクロチルドと東京で20年ぶりに再会した際には、「クロチルドが、その名のとおり半冷凍の黒目で立っていた」。言葉あそびですね。
詩人が自筆で葉書に書いた詩に関する主人公の解釈も面白い。
「黄色は空の分け前、青は空になく空に青はない・・・」
もしかしたら、これはアルジェリアのサハラ砂漠からフランスへ吹き付ける黄砂を詠んだのかも、と著者は思う。
主人公は若い頃にフランスへ留学していた。パリの蚤の市で見つけた使用済みの古い絵葉書は何の変哲もない民家を撮った白黒写真で、裏の通信欄に10行の前衛的な詩の様なものが几帳面な字で書かれてあった。主人公はその詩のようなものに心を惹かれ、訪仏の度に同じような絵葉書を探し求めた。
絵葉書の発信者はフランス西南部の町に住む男性で宛先はフランス北部の町にすむ女性らしかった。二十年かけて何枚かの絵葉書が見つかり、すべてに異なる10行の詩が記されていた。ある蚤の市で出会った男からはその詩人と思われる肖像写真と男の住む地方の商工会議書の年報を買い取ったが、その年報には余白にやはり同じ筆跡で詩が書かれていた。
物語はこの詩の作者のプロフィールが次第に明らかになって行く過程を描いているが、詩の謎や受け取りての女性についての謎のすべてが明らかにされていく訳ではない。
詩人の男は会計士であり、第二次大戦中には対独レジスタンスに関わっていたらしい。詩人に関する情報がわずかしか得られないのは、対独レジスタンスの間に機密保持のため手紙や写真をすべて燃やしてしまったからだった。
詩人に関するエピソードもあるが、主人公がフランス滞在中に出会った人々との交流に関するエピソードが興味深い。主人公が泊まった安ホテルがアルジェリア人家族の経営で、そこのレストランで出されるクスクスがとても美味いことや、主人公が最初の訪仏の際にフランスの核関連の会社に頼まれて日本語で書かれた原子力関係の書類の翻訳をしたこと、その会社が福島での原発事故の際に訪日したことなど。
著者の文章には不思議なユーモアもある。かつてフランス滞在中に知り合った同年代の女性のクロチルドと東京で20年ぶりに再会した際には、「クロチルドが、その名のとおり半冷凍の黒目で立っていた」。言葉あそびですね。
詩人が自筆で葉書に書いた詩に関する主人公の解釈も面白い。
「黄色は空の分け前、青は空になく空に青はない・・・」
もしかしたら、これはアルジェリアのサハラ砂漠からフランスへ吹き付ける黄砂を詠んだのかも、と著者は思う。
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1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:174
- ISBN:9784104471058
- 発売日:2016年01月29日
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