たけぞうさん
レビュアー:
▼
圧倒的な存在感。これぞ名作。
久世番子さん作の漫画で、ショートカット先「よちよち文藝部 世界文學篇」 で紹介されていて興味を持ちました。早川書房から新訳版が発行されていることを知り、読んでみることにしました。わたしは翻訳調と言われる時代の作品に馴染めない場合があるので、新訳を歓迎しています。もし本著を気になっている人がいたら、この版は素晴らしさを存分に楽しめる作りでしたよとお伝えしたいです。
スタインベック、怒りの葡萄。学校の教科書で知った記憶がありますが、なかなか手を伸ばせていませんでした。総頁数869で、上下巻です。やはりという分量で、二の足を踏んでいました。
実際に読んでみると、新訳のおかげで非常に読みやすかったうえ、まるでミュージカルの舞台を見ているような雰囲気があったんですね。わたしの頭には、ミス・サイゴンの迫力が去来していました。
第一章。オクラホマの赤い土地に、最後の雨が降り、トウモロコシと牧草のしげみができました。でも五月下旬には空の色が淡くなり、地表には硬い殻の薄膜ができ、大地の色も淡くなりました。地表は砂埃となり、トウモロコシの葉はうなだれました。人々は家の中で身を縮め、外に出るときにはハンカチで鼻と口をおおってうしろで結び、目を守るためにゴーグルをかけました。
訳者あとがきで知ったのですが、舞台は1929年に始まった世界恐慌のときで、1930年代のアメリカ中西部・南西部を襲った大砂塵嵐の吹き荒れる世界だったのです。
第一章には特定の登場人物はいません。漠然と、人々はと描写していく語り口調です。
第二章は、トム・ジョードが登場し、一転して個別の物語となります。ヒッチハイクで実家に向かうところです。雑然とした低所得者たちの間にまぎれこみ、なんだか不穏な空気が漂っています。
スタインベックは、章構成について「一般章」と「個別章」と呼んだそうです。個別章でジョード家の生命力あふれる物語を書きつつ、一般章をちょくちょくはさみ込んで物語の舞台を構築しています。
わたしにはあまり馴染みのない形式で、ものすごく気に入りました。ミュージカルみたいだと思ったのは、きっとこの構成のおかげです。
訳者あとがきにある通り、この物語は多面的に作られています。いろいろな切り口があり、深さを感じるのです。わたしは初読でしたが、連想された言葉は、プアホワイトと搾取です。アメリカ版の蟹工船とでも言えばいいのでしょうが、怒りの葡萄は圧倒的に明るくて、理不尽で、生命力にあふれていたので、読んでいてずっと惹きつけられっぱなしでした。
人間の尊厳とエゴイズムの軋轢を書ききった傑作だと思うのです。現代社会にも当てはまることがたくさんありました。トランプ前大統領の旋風の足元で、アメリカの底辺の闇をちらちらと感じていましたが、この物語にそのルーツとでも言うような社会構造を読んだ気がするのです。
圧倒的に素晴らしい作品という一言につきます。
スタインベック、怒りの葡萄。学校の教科書で知った記憶がありますが、なかなか手を伸ばせていませんでした。総頁数869で、上下巻です。やはりという分量で、二の足を踏んでいました。
実際に読んでみると、新訳のおかげで非常に読みやすかったうえ、まるでミュージカルの舞台を見ているような雰囲気があったんですね。わたしの頭には、ミス・サイゴンの迫力が去来していました。
第一章。オクラホマの赤い土地に、最後の雨が降り、トウモロコシと牧草のしげみができました。でも五月下旬には空の色が淡くなり、地表には硬い殻の薄膜ができ、大地の色も淡くなりました。地表は砂埃となり、トウモロコシの葉はうなだれました。人々は家の中で身を縮め、外に出るときにはハンカチで鼻と口をおおってうしろで結び、目を守るためにゴーグルをかけました。
訳者あとがきで知ったのですが、舞台は1929年に始まった世界恐慌のときで、1930年代のアメリカ中西部・南西部を襲った大砂塵嵐の吹き荒れる世界だったのです。
第一章には特定の登場人物はいません。漠然と、人々はと描写していく語り口調です。
第二章は、トム・ジョードが登場し、一転して個別の物語となります。ヒッチハイクで実家に向かうところです。雑然とした低所得者たちの間にまぎれこみ、なんだか不穏な空気が漂っています。
「 ────── 要するに人をひとり殺したんだ。懲役七年。態度がいいんで四年で出てきた」
トムの言葉にトラックの運転手は戸惑います。
「おれはなんにも訊いていないからな。おれには関係ないことだから」
スタインベックは、章構成について「一般章」と「個別章」と呼んだそうです。個別章でジョード家の生命力あふれる物語を書きつつ、一般章をちょくちょくはさみ込んで物語の舞台を構築しています。
わたしにはあまり馴染みのない形式で、ものすごく気に入りました。ミュージカルみたいだと思ったのは、きっとこの構成のおかげです。
訳者あとがきにある通り、この物語は多面的に作られています。いろいろな切り口があり、深さを感じるのです。わたしは初読でしたが、連想された言葉は、プアホワイトと搾取です。アメリカ版の蟹工船とでも言えばいいのでしょうが、怒りの葡萄は圧倒的に明るくて、理不尽で、生命力にあふれていたので、読んでいてずっと惹きつけられっぱなしでした。
人間の尊厳とエゴイズムの軋轢を書ききった傑作だと思うのです。現代社会にも当てはまることがたくさんありました。トランプ前大統領の旋風の足元で、アメリカの底辺の闇をちらちらと感じていましたが、この物語にそのルーツとでも言うような社会構造を読んだ気がするのです。
圧倒的に素晴らしい作品という一言につきます。
お気に入り度:









掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。
自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。
この書評へのコメント

コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:早川書房
- ページ数:447
- ISBN:9784151200809
- 発売日:2014年12月19日
- 価格:907円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。






















