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241 PV
レビュアー:
2月20日は多喜二忌だと聞いたから、久々に多喜二を読んでみた。
弟が面会に行くとき、今度の事件のことをお前に知らせるようにと云ってやった。
差入のことや家のことや色々なことを云った後で、弟は片方の眼だけを何べんもパチ/\させながら、「故里くにの方はとても吹雪ふぶいているんだって。」と云った。するとお前は

書き出しは少しばかり唐突にこんな風に始まる。

この間、おまえの弟が面会に行ったときにね。
こっちでおこったあれこれをお前に伝えるようにと言ってあったんだけどね。
「故里の方はとても嵐だって!」とあの子が必死に目配せしても
おまえは「目をどうかしたのか?」と弟を心配しこそすれ
あの子が必死に伝えようとしたことにちっとも気づかなかったそうだね。
あの子の手紙を読んで私は思わず笑ってしまったよ。

そんな中味だ。
母が語りだす相手は
故郷北海道を遠く離れた地で投獄されている息子。
続いて語られる内容は当時決して手紙に書けるような話ではなかったはず。
母はきっと心の中でたえず息子に語りかけているんだろう。

ある朝早く家に特高がやってきたんだよ。
おまえは既に捕まっているのだから
この家に用なんかないだろうと思っていたのだけれど
あろうことかおまえの妹を引っ張っていったんだ。
私は何にも知らなかったから
本当にびっくりしたのだけれど
あの娘は覚悟していたんだろう、
普段ははかないズロースを二枚も重ね履きしていたよ。
私が口にしたことと言えば、なさけないことだが、
「寒くないか?」と「あ――あ、お前もか!」という言葉だけだったよ。

折々の光景が目に浮かぶように
そんな細かな描写を織り交ぜながらの母の語りは
1930年12月1日に実際にあった
北海道地方の左翼労働団体への大規模な弾圧「十二月一日事件」を扱っている。

多喜二の母親を思わせる母を語り手として、
息子や夫の逮捕や裁判で動揺する母たちの
嘆きや迷いや苦しみを鮮明に描き出しているのだ。

子どもを愛し信頼するが故に過酷な運命を受け入れて、
少しでも子どもたちの役にたとうとする母
自らもインテリで、息子の活動の意味を理解し支援を惜しまない母、
その成長と成功だけを楽しみにしていた息子が捕まったことに衝撃をうけ、
息子をそそのかしたにちがいない輩の母にその恨みをぶつける母、
幼子を抱えた貧乏暮らしが夫の検挙によっていっそう困窮し途方にくれる妻

母たちの心情はいずれも否定されることなく、
その切々とした訴えは心を打つ。

その母たちの思いははたして、子どもや夫に届くのか………。

物語の終わりは少し苦い。
だが決して後味は悪くない。

それはたぶん、描かれている母たちがそれぞれ
立ち位置が異なっていても子に対する愛情に溢れているように、
読み手がたとえどんな思想を持っていたとしても、
母たちがみせる愛情に心打たれるからなのかもしれない。


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かもめ通信 さん 本が好き! 免許皆伝 (書評数:1068 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。

素晴らしい洞察: 1票
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この書評へのコメント

  1. かもめ通信 2016-02-20 08:11

    それにしても「時代」なのか「階層」なのか、かの子版“母”との違いにもびっくりだよねえ~(汗)
    http://www.honzuki.jp/book/234802/review/149399/

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