まりしてん誾千代姫(ぎんちよひめ)

誾千代（ぎんちよ）姫。
西の無双と言われた立花宗茂の奥さんである。

日本史において「奥さん」単体で名が知られているというのは、
個人的には多くないと思う。
時代・歴史物を読んでいても、男の武将なら
誰やねんソレという名でも記録があったりするが、
女性は「妻」「娘」という肩書以上でも以下でもないことが珍しくない。

残っているのはよほどの才女・烈女であったか
悲劇のヒロインであったかして、「お話」になりうる女性だろう。
それでも恐らく、公式に残っている記録は少ない。
誾千代姫はそういう意味では「烈女」属であり、
また三ツ星級の上質食材かもしれない。

誾千代姫はいわば「日本のオスカル様」だ。
父・戸次道雪には男児が無く、城督を7歳の誾千代に譲った。
戦闘時には甲冑に身を包み、城の護りを務めたと言われる。
もうコレだけでゲーム会社の萌えを刺激するであろう。（笑）

他にも女城主であったとして井伊直虎（※男性名だが女性）がおり、
再来年大河で柴崎コウが演じるらしい。
が、女性として正式に城督を継いだ例は、誾千代姫くらいではなかろうか。

道雪は将器を見込んで宗茂を養子に迎えるのだが、
一般的に二人の夫婦仲はよくなかったとされる。
が、別にそれを裏付けるモノがある訳ではなく、
これまた誾千代ツンデレなんじゃないかもっとやれという
一部の萌えを刺激するのであろう。多分。（笑）

誾千代が上級食材だという意味がお分かりいただけたら（わかんねーよ）
本書の話へと進めよう。

本書の誾千代は、地文と侍女の視点を交互に書かれている。
摩利支天になぞらえた大和撫子として
侍女が熱烈に誾千代をマンセーしているのが、
横からやいやい言われてるみたいで、個人的に少々読み辛かった。

また先も言った通り、女性の歴史記録はきちんと残っている訳ではなく、
かなり作者の創作が入っている印象。
いや、単純に戦友夫婦とみれば気持ちの良い夫婦関係なのだが、
つい歴史と照らし合わせてしまい
却って誾千代の存在を否定しているような心持になった。

夫婦仲が悪かったとされるからこそ、
誾千代を主役に書くからには、もっと忍ぶ女性であってもよかった。
この時代の女性が鎧で身を固めることは
恐らく現代のキャリアウーマンより、何倍もの強さと
理解を得られない孤高さがあったと思うのだ。
分かり易い物語になっていることが、逆に残念だった。

ただ、秀吉と誾千代の関係は面白かった。
こちらも史実で、側室にと狙っていた秀吉の城に
武装して乗り込んだと言う武勇伝がある。
が、本書の誾千代は決して秀吉を嫌ってはおらず、むしろ心をぐらつかせる。
「秀吉の人好きされる性質」を非常に面白く描いている。

中央部からはでなく、九州の地からみた戦国の情勢も
分かり易くてよかった。
全体的には面白く読めたのだが、やはり
誾千代像があまりに作り話めいていたのが、
自分の中で★１つ分楽しめなかったというのが、感想である。