かもめ通信さん
レビュアー:
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700ページ近いボリュームの中にぎっしりと詰め込まれたのは、はらはらする冒険譚とゾクゾクするエキゾチシズム。史実と虚構の入り交じった山ほどの“情報”と知れば知るほど不思議な男の物語?!
その男、リチャード・フランシス・バートンは、東インド会社の士官としてインドに赴任した。
だが他の士官達の様にビリヤードとブリッジに明け暮れて、かび臭いクッションに沈み込む日々を送る気にはなれなかった。
バートンは人生を無駄にしないために言葉を学ぶことにした。
言葉の力があれば退屈というくびきを逃れ、出世を早め、やりがいのある任務にも就けるというものだ。
手始めに召使い相手にヒンドスタニー語を、やがて師についてグジャラート語やサンスクリット語を学び、ヒンドゥー教やイスラム教の教え、現地の人々の食生活、生活習慣などについても貪欲に吸収していく。
そのうち彼は、身分や出自を偽って人々の中に紛れ込むようになる。
初めは好奇心を満たすために、次第にスパイ活動のために。
だがあるとき、師は彼に言い放つ。
数年後、バートンが降り立つのは、エジプトの地だ。
カイロでアラビア語を身につけた後、インド系イスラム教徒に扮してメッカ巡礼をなしとげ、その顛末を面白おかしく書き記した本を祖国イギリスで出版する。
びっくりしたのはかの地の支配階層だ。
彼は単なるお騒がせな冒険家か、あるいはイギリスの凄腕スパイだったのか?!
バートンに関わった人々は皆、あれこれと尋問を受ける羽目になる。
時を経て、バートンが現れたのは東アフリカ。
今度はナイルの源流を探る探検に出るという。
困難な旅の途中にはその終わりを夢みるにもかかわらず、終わってみればまたすぐに新たな旅の計画を立て始めずにはいられない性分で「幸福は旅の道程にある。そう旅の道程が幸福なんだ。」と心から思ってしまう冒険家。
あちこち旅をして、その土地土地の言葉を覚え、風習を身につけ、様々な情報を集める諜報活動の専門家。
『千夜一夜物語』や『カーマ・スートラ』を“翻訳”し、西洋社会に知らしめた文学者。
バートンについて書かれたこの物語は、時にバートン本人の回想の形をとり、時に彼を主人公にした語りとなり、時に彼に関わった様々な人物の“証言”によって肉づけられるという、幾重にも積み重ねた様な多重構造で構成されていて、まるでこの本に納められた“情報”そのものが、収集癖のある人物によって集められてきたものででもあるかのようだ。
だが考えてみれば、本を読むということそれ自体が、世界中のあれこれを“収集”するという行為にほかならないのかもしれない。
もっともこんなつぶやきが現場主義のバートンの耳に届いたら「読んだだけで何がわかる」と鼻で笑われるかもしれないが。
だが他の士官達の様にビリヤードとブリッジに明け暮れて、かび臭いクッションに沈み込む日々を送る気にはなれなかった。
バートンは人生を無駄にしないために言葉を学ぶことにした。
言葉の力があれば退屈というくびきを逃れ、出世を早め、やりがいのある任務にも就けるというものだ。
手始めに召使い相手にヒンドスタニー語を、やがて師についてグジャラート語やサンスクリット語を学び、ヒンドゥー教やイスラム教の教え、現地の人々の食生活、生活習慣などについても貪欲に吸収していく。
そのうち彼は、身分や出自を偽って人々の中に紛れ込むようになる。
初めは好奇心を満たすために、次第にスパイ活動のために。
だがあるとき、師は彼に言い放つ。
好きなだけ変装すればいい、だが我々のひとりであることがどんなものか、君が知ることは決してない。君はいつでも変装を解くことができる。君にはいつでも、その最後の逃げ道が残されている。だが我々は、この体のなかに閉じ込められているんだ。断食と飢餓は同じものではないと。
数年後、バートンが降り立つのは、エジプトの地だ。
カイロでアラビア語を身につけた後、インド系イスラム教徒に扮してメッカ巡礼をなしとげ、その顛末を面白おかしく書き記した本を祖国イギリスで出版する。
びっくりしたのはかの地の支配階層だ。
彼は単なるお騒がせな冒険家か、あるいはイギリスの凄腕スパイだったのか?!
バートンに関わった人々は皆、あれこれと尋問を受ける羽目になる。
時を経て、バートンが現れたのは東アフリカ。
今度はナイルの源流を探る探検に出るという。
困難な旅の途中にはその終わりを夢みるにもかかわらず、終わってみればまたすぐに新たな旅の計画を立て始めずにはいられない性分で「幸福は旅の道程にある。そう旅の道程が幸福なんだ。」と心から思ってしまう冒険家。
あちこち旅をして、その土地土地の言葉を覚え、風習を身につけ、様々な情報を集める諜報活動の専門家。
『千夜一夜物語』や『カーマ・スートラ』を“翻訳”し、西洋社会に知らしめた文学者。
バートンについて書かれたこの物語は、時にバートン本人の回想の形をとり、時に彼を主人公にした語りとなり、時に彼に関わった様々な人物の“証言”によって肉づけられるという、幾重にも積み重ねた様な多重構造で構成されていて、まるでこの本に納められた“情報”そのものが、収集癖のある人物によって集められてきたものででもあるかのようだ。
だが考えてみれば、本を読むということそれ自体が、世界中のあれこれを“収集”するという行為にほかならないのかもしれない。
もっともこんなつぶやきが現場主義のバートンの耳に届いたら「読んだだけで何がわかる」と鼻で笑われるかもしれないが。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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この書評へのコメント
- Wings to fly2015-12-14 15:03
うわっ!これ面白そう~~~♪今年はもう700ページに挑戦する時間がないので、来年の分として積みました(^^)表紙の絵が気に入りました♪洒落た装丁ですね。
クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - かもめ通信2015-12-18 20:06
さすがぴょんはまさん!「千夜一夜」も「カーマスートラ」も?!
えーでも、そうかあ。大人じゃないと読めない中味なのか~私は乙女系だからなあww
ちなみにこの『世界収集家』版のバートンは、インドで女性に溺れていました!wクリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:早川書房
- ページ数:692
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