大人の「ザリガニ飼育」である。
「ザリガニ飼育」が「大人」ってどゆこと???
興味がない人には、これほどつまらない本はないのではないかと思うのだが、ザリガニ・キーパーの端くれとして、個人的には滅法おもしろく読んだ。
基本的な飼育情報は一通りある。
体の基本構造や交尾の基礎知識、成長の様子などがわかりやすく解説された上、
一歩踏み込んだティップもある。
曰く、ザリガニは汚い水でも住めるが、汚いところが好きなわけではない。適宜、フィルターを使い、エアレーションをすること。
曰く、ザリガニは無用な摩擦を避けるため、なるべく個別飼育をすべし。水槽を増やせない場合はパーティションを上手に使い、また隠れ家をなるべく離しておくべし。
曰く、ザリガニ死因の第一位は脱走なり。わずかな隙間も塞ぐよう、重々気をつけるべし。
それはそれで「はぁ、なるほど、勉強になりましたm(__)m」と平伏するのだが、この本の真骨頂は多分、そこではない。
ザリガニを丁寧に飼育するのはなぜか。それは鑑賞するためである。
そう、ザリガニは鑑賞するものなのである。
柔らかくない、ハサミで挟まれれば相当に痛い、そして大して懐きもしないものを飼うのはなぜかといえば、「見て愛でる」ためなのだった。
錦鯉のように、金魚のように、あるいは江戸期に流行ったという変わり朝顔のように、多彩な色や配色のザリガニの作出にかなりの紙面が割かれている。
定番の赤。雪のような白。白に特殊な飼料を与えて作り出す黄色。空のような青。青と青の交配で生まれる桜色。部分的に白化したゴースト。髭だけ白い白髭。
どの個体を掛け合わせたらどのような稚ザリガニが生まれるのか、実はやってみなければわからない。そのギャンブル性がまた、楽しくもある、というところなのだろう。
長く飼育し、交配させ、ゆくゆくは気に入った個体を作出する。
これぞ大人の余裕。
鑑賞対象であるからして、基本、写真が美しい。
巻頭の解説は、外来生物としての側面と生態系に及ぼす影響に触れ、常識的かつ良心的である。ザリガニを愛するならば、最後まで責任を持って飼え、という論調は本書全体で一貫している。そのあたりも好感が持てる。
世界のザリガニカタログもある。こちらは今や輸入が不可能な(特定外来生物指定されていたり、逆に絶滅危惧種であったり)ミナミザリガニ科のものが多く載せられており、なかなか興味深い。
最後に裏磐梯で増えてしまったウチダザリガニ(特定外来生物指定種)を捕獲するイベント、ザリガニ祭の紹介。本書のモデルも務めるザリガニ好きのイケメン俳優さんがアンバサダーとなっているらしい。
いやいや、ザリガニってこういう楽しみ方があるのですか・・・。まだまだひよっこだな(==)と何だか感じ入ってしまったのであった。
*・・・と感じ入って終わってもよいのですが(^^;A)、自分が興味を持ったのは、そもそも「単為生殖をする」ザリガニがいる、それがこの本に出ている、と漏れ聞いたためでして(^^;)。
以下、個人的に気になった情報を挙げておきます。
・まずは件の単為生殖。怖ろしいことです。ただでさえ繁殖力が強いのに。
マーブルクレイフィッシュ、またはミステリークレイフィッシュ(後者は日本でしか使わない呼称です)。学名Procambarus fallax f. virginalis。Procambarus falluxから派生した変異種であることが知られています。
cf: Nature 421, 806 (20 February 2003)
Contributions to Zoology, 79 (3) – 2010
すでに野に放たれた個体もあるようです。絶対放しちゃダメ(><)。
virginalisというように、雌のみが知られています。(このうえ性転換する変異種とかが出てくるとすごすぎる(^^;))
・ザリガニペスト、というのがあるそうでして。ペスト菌とは直接は関係がなく、ミズカビと呼ばれる卵菌の仲間(Aphanomyces astaci)です。水中伝染力が強く、個体同士が接触しなくてもあっという間に広まるとのこと。ザリガニなどの甲殻類が感染するようです。
ザリガニがカエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis)を媒介しているのではないかという話もありましたが、野に放たれるとあちこちに移動するザリガニですから、ひとたび病気の運び屋さんになってしまうと大変ですね。
・脱皮後に平衡感覚器に砂粒を入れないとバランスが取れなくなる、と聞いていたのですが、実は自分で適切な大きさの粒を結石化することが可能であるとのこと。うちの水槽の底砂も粒が大きかったけど、大丈夫だったのはそういうことか、と今、気がついたり(^^;)。




分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
この書評へのコメント
- ぽんきち2013-12-19 00:12
はにぃさん
> 交配
すごい世界ですよねぇ・・・。
ただ、これもアメリカザリガニが特定外来生物に指定されてしまったら、基本、不可能になるわけで。指定されないといいですけれども。
どうなりますか。
> 平衡感覚器に砂粒
いやいや、いい質問です(≧▽≦)。
私ったらうっかりキーパーなので、いまだに脱皮自体を目撃していないのですよ。だから平衡感覚器に砂を入れるところも見たことないんです(^^;)。
ザリガニの平衡感覚器は触覚の根元にあるので、歩脚で砂を掴んで頭上からぱらぱらと入れるのであろう(==)(という挿絵が「ザリガニのかいかた・そだてかた」にも出ています)と思っていたのですが、さて、「自分で作る」となると、どこで作ってどうやって入れているのか、そもそも感覚器の中に自然に出来ていくのか、謎、深まる(^^;)クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - はにぃ2013-12-19 06:50
ぽんきち先生、ありがとうございます♪
でもね、余計疑問が出てきてしまいました(^^;
「歩脚で砂を掴んで頭上からぱらぱらと入れる」っていうことは、偶然に頼ってるってことじゃないですか?
適当な砂がない状態だったり(そういう場合は脱皮しないのかな?)、コントロールが悪い(?)ザリちゃんで、砂をかけてるつもりが全く入らなかったりも可能性としてはあるわけですよね。
飼育されているザリちゃんなら、バランス取れなくても生命には問題ないかもしれないですが、野生のザリちゃんは致命傷になるような気がするんですが。
ぽんきち先生困らせるようなこと書いてごめんなさい。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - ぽんきち2013-12-19 09:16
はにぃさん
えへへ、私もよくわからないのですが(^^;)。
以下、半素人の推測です。
平衡感覚器に入れているところは見たことがないんですが、概して、ザリガニの歩脚は器用なように思います。餌をキャッチしたりもしますし。入れたいものが入らないほど不器用ではないと思います(あんまり不器用だと淘汰されそう(^^;))。
問題は砂があるかどうかですね(砂がないので脱皮しない、というのは考えにくいように思います)。
外界にある場合は砂を利用することもあるのでしょうが、近年、自分で(体内で?)作れることがわかったとのことです。それがどこで、どのようにしてか、というのはこの本には詳しくは書いていなかったので、ちょっとわかりません。また何かで行き当たったらご報告しますね。
思えばザリ子の時だったか、脱皮直後にはひっくり返っていたのが、そのうち元通りになったのは、その間に粒を作っていた、のかもしれません。
えーっと、お答えになってるかな・・・?クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - ぽんきち2013-12-19 09:15
風竜胆さん
ウチダザリガニは裏磐梯ザリガニ祭に行くと食べさせてくれるみたいです(^^;)。アメザリも供されている模様です。
http://www.urabandai-inf.com/blog/?p=9079
いつか行ってみたいような気もします。
そういえば、この本にもウチダを食べる写真が出てたっけ。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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