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紅い芥子粒
レビュアー:
まったく色彩のない世界にくらすというのは、どのような感じだろう? 脳神経科医のサックス博士は、子どものころから疑問に感じていた。
先天性全色盲は、非常に珍しい。三万人か四万に一人しか発生しない病気である。
その珍しい先天性全色盲の人が、人口の一割を占める島があるという。
ミクロネシアのピンゲラップ島。
友人の医師からその話を聞いた博士は、ピンゲラップ島行きを思い立つ。
1994年のことだった。

同行者は二人。友人で眼科医のボブ。ノルウェー人の科学者で全色盲のクヌート。
三人は、ハワイで落ち合い、島めぐり便の飛行機に乗る。
太平洋の上空を飛んで、ミクロネシアへ。

ピンゲラップ島は、ポーンペイ島のまわりに位置する環礁島のひとつである。
小さな島で、荒い海に囲まれている。千年ほど前にこの島に渡ってきた人々の子孫が暮らしているが、近隣の島との交易や交流は、活発ではない。年に四、五回、米軍の輸送船が物資やごくまれに乗客を運んでくる程度だという。
二百年ほど前に、島は猛烈な台風に襲われた。そのあとに飢饉が続き、千人いた島の人口は、二十人まで減った。人口が減ると、近親婚が続き、劣性の遺伝病が現れる。
島に全色盲の子どもが生まれるようになったのは、それからだという。

サックス博士の一行は、チャーター機でポンペイ島からピンゲラップ島に飛んだ。
ピンゲラップ島では、眼科医のボブが、島民の目の検査をした。
自身が全色盲のクヌートは、自分の経験を島民に話し、全色盲の人にサングラスをプレゼントした。
全色盲の人は、光を非常にまぶしく感じる。
サングラスをかけると、日中の活動がとても楽になるのだ。

書かれているのは、眼のことばかりではない。
島の人々の生活と民俗や宗教、美しい海やジャングルに生息する植物や動物、地形、地質など多岐にわたる。
海に囲まれ隔離された島でありながら、欧米の戦争や資本の侵略に蹂躙されてきた歴史も、きちんと書かれていて、読みごたえがあった。

この本は、「第一部 色のない島へ」と「第二部 ソテツの島へ」の二部から成っている。もともと二冊だった本を一冊にして出版したものだという。

第二部のグァム島探訪記は、謎の神経病の原因を究明する科学者たちの話である。
ソテツの実の毒のせいではないかとか、飲料水が原因ではないかとか、さまざまな仮説がたてられたが、動物実験の結果、ことごとく否定されていった。
その神経病は、1952年以降に生まれた人には発症していないというから、2023年のいまは、もうなくなっているかもしれない。原因は不明のままで。

時系列でいえば、博士のグァム島訪問はピンゲラップ島訪問の前で、色のない島のことを教えてくれたのは、グァム島のジョン医師だったのである。

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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:561 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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