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風竜胆さん
風竜胆
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かって、男女の交わりによって、即身成仏を目指す密教宗派が存在した!
 立川流とは、かって存在した真言密教の一派である。平安時代末に、大阿闍梨仁寛によって始められたとされるが、その教義があまりに婬猥であったため、邪教のレッテルを貼られて、弾圧された。現在では断絶した流派だが、その特異性により、伝奇小説やミステリーなどのモチーフとしても時折使われている。本書、「邪教・立川流」(真鍋俊照:ちくま学芸文庫)は、この流派について、学術的な立場から解説したものである。

 立川流を創始した仁寛は、1114年(永久2)、鳥羽天皇の暗殺を計画した罪で伊豆に流された。彼は、翌年自害したが、この配流中に、無名の陰陽師に、真言秘密の法を授けたという伝承から、立川流の系譜は始まる。

 真言密教が目指すのは、即身成仏だが、立川流では、それが男女二根の冥合による性愛秘技により可能だとする。極めつけは、その本尊の作りかただ。なんと、男女が交わった時の和合水を、120回ほどもドクロに塗って作るというのである。

 密教には、二つの対立概念が存在する。例えば胎蔵界と金剛界、阿字と吽字、理と智などである。それらは女性原理と男性原理の象徴と言っても良いだろう。女性的なものと男性的なものが結合したとき、そこに悟りの境地が生まれるということである。しかしそれは、あくまでも観念的なもの、精神的な象徴としての話だ。立川流が、邪教とされたのは、それを文字通り、男女の交わりと捉えたからである。

 当時は末法の世と考えられていた。著者は、<立川流は末法の世のいわゆる混沌の中から生じた徒花と見なしうるかもしれない>と述べている。しかし、このエロスとタナトスに溢れた徒花は、背徳的ではありながらも、どこか不思議な魅力を放出している。

 本書には、仁寛自身の物語、密教及び立川流の理論などが、豊富な資料と共に示されている。正直な話、密教や立川流の理論に関する部分は、相当この方面に造詣が深くないと、理解は難しいかもしれない。それでも、密教の歴史の中で徒花のように咲いた、立川流の世界を垣間見ることはできるだろう。

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風竜胆
風竜胆 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2797 件)

昨年は2月に腎盂炎、6月に全身発疹と散々な1年でした。幸いどちらも、現在は完治しておりますが、皆様も健康にはお気をつけください。

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この書評へのコメント

  1. そのじつ2013-12-18 20:38

    若い頃、夢枕獏のサイコダイバーシリーズで「立川流」を知りました。獏さんが作ったのかと思うような妖しい世界ですね。
    平安の左大臣が始祖とは意外でした。
    バリ旅行で寺院に行ったとき、歓喜仏のレリーフがたくさんあって、驚きました。

  2. 風竜胆2013-12-18 21:04

    >そのじつさん
    立川流は、伝奇もののモチーフとしてもよく使われますね。京極夏彦の作品にも出てきましたし、古くはつのだじろうの漫画にも出てきた覚えがあります。
    左大臣の件は、この本にはそう書いてあったのですが、調べて見ると本人はどうも違うようです。父親は村上源氏の嫡流で、確かに左大臣だったのですが。修正しました。

  3. はにぃ2013-12-18 22:34

    お邪魔します。
    お二人の高尚な会話のあとに、すみません。
    和合水そんなにどうやって集めたのか気になります。

  4. 風竜胆2013-12-19 07:38

    >はにぃさん
    それは、やっぱり、ひたすら励んだんだろうと思いますw

  5. 風竜胆2014-05-21 07:19

    伝奇もののファンは、必須の知識ですw

  6. くにたちきち2014-05-21 10:15

    下田にある了仙寺に付属している博物館の一角に、男女和合の仏たちが陳列されています。元々はヒンズー教の神々であったようですが、実物を見れば納得できるのではないでしょうか?

  7. 風竜胆2014-05-24 09:46

    >くにたちきちさん
    男女和合の仏というと歓喜天でしょうか。そうだとすると、元はヒンドゥー教のガネーシャ神ですね。日本では聖天さまとしてまつられていることが多いですが、秘仏になっていることも多いようです。

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