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たけぞう
レビュアー:
近未来のバイオ社会の悪夢。
非常に評判が高く、読んでみたかった作品です。
舞台は近未来のバンコク。石油は枯渇しています。
わずかに残る石炭を使うか、遺伝子操作で生まれた象のメゴドントを使って
ぐるぐると重い発電機を巻き、生み出した発電エネルギーを、
フライホイール的な小型ねじに貯めることで得た電力で人々は生きています。

カテゴリーはSFですが、いまの世の中の延長線上にあることが
容易に想像できて、既視感にあふれています。ディストピア小説です。
読んでいるこちらも、世界がこのまま肥大化したら
きっとこうなるだろうと受け止めてしまうのです。
だから変な感覚なのですが、SFという感じがしません。

作品は、激しい展開と攻撃的な雰囲気があり、
ちょっと古い表現ですが血沸き肉躍るサバイバルゲームという表現が
思い浮かびました。
露悪的なほど人間の醜さが描かれていく作品なのです。

物語は五人の視点で語られます。
題名のねじまき少女ことエミコはそのうちの一人です。
誰が主人公とも言い切れず、全体で一つの世界を構築しています。

第一章の語り手はアンダースン。
バンコクに食らいつく西欧系のアグリジェン社から派遣された人物です。
バンコクの市場で、アンダースンは見たことのない果実に出くわします。
聞くと、ンガウだという答えが返ってきました。

世界が汚染されているのです。
チビスコシスウイルスと、ジーンハック・ゾウムシにより
食物が汚染され、瘤病と疥癬カビにより容易に命を失うのです。
海面は温暖化で上昇し、バンコクも巨大な堤防で防御されています。
だから新種の食べ物の発見は驚きだし、病気の耐性があるかも
しれないのです。
ンガウの出所を突き止めるべく、アンダースンは動き出します。

キーワードがいくつかあります。
カロリー企業と呼ばれるバイオからエネルギーを生み出す社会、
イエローカードと呼ばれる難民。
著者の発表してきた作品群と重なる言葉で、
一貫してこの世界を書き続けているようです。

やや説明不足気味なのは、前作があるからなのかもしれません。
世界観はだいたい掴めるものの、消化不良気味に早い展開で進んでいくので、
テンポがいいと思うか、置いてきぼり感となるかは読み手次第でしょう。
好みが分かれそうです。

人間の本質をえぐってくる作品です。一読の価値があります。
わたしは趣味に合わない部分がありましたが、
これはこれですごい世界観だと思い、評価は星四つです。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。

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