また買ってみた4冊目。
や、今回は変態性を期待して買ったのではない。
本書の谷崎変態性を数値化しても、20%はいかないだろう。
(低いの高いのかも分からんが)
昭和10年から40年ほどの間に
磊(らい)吉夫婦が雇った女中たちの遍歴が書かれている。
遍歴と言うか、もうこれだけの数になるとリストと言ってもいいかもしれない。
初と言う女性に始まって、えつ、はる、みつ、ます、みき
梅、駒、定、鈴・・・とまだまだ続く。
職場環境が悪くて、次々と女中たちがやめるのではない。
磊吉は本宅と別荘の2つの家があり、妻たちも基本家事は人任せなので
同時に数人を雇い入れているのだ。
何だか豪勢な話だが、この時代は女中が居る生活は珍しいものではない。
逆を返せば女性の働き口は、戦後随分になるまで少なかったのだろう。
またこの女性達の名は、本名ではない。
主人と言えど、親からの名前を呼びつけにするのは不躾だということで
雇われたときに「名」を与えられるのである。
しかしのこの風習は廃れ、やがて「〇〇(本名)さん」という呼称となる。
また「女中」という呼び名も時代と共に「メイド」「お手伝いさん」へ、
今なら「家政婦」「ホームヘルパー」とでも言うのだろうか。
いわば本書は、「女中」そのものの歴史とも言える。
職務のみを務めて銀行から給料が振り込まれるようなそれではなく、
名を与えられ、同じ屋根の下で暮らすからこその
「プライベート」に踏み込んだ主従の間柄がある。
なんという事はない話なのに、なんだか引き込まれるのだ。
また谷崎が書いているとなると余計に
磊吉がいつか変態になるんじゃないかとそわそわするのだが
相変わらず足フェチだなあってくらいで踏みとどまっている。(温かいまなざし)
隣の庭をチラ見するような野次馬根性も
ある意味、この本を読む上での戦力なのかもしれない。
題材としても面白いのだが、ちょっと感慨深いものもあった。
全く個人的な話なのだが、実はうちのバーチャンは女中だったんである。
離婚してから、女一人で身を立てるのは難しかったのだろう。
離れにある小屋を貰って、住みこみ女中をやっていた。
おかんがこの辺の事情を自分に言ってくれなかったので
小さい頃、自分に祖母が3人いることを何ら不思議に思っていなかった。
そこの家のおじさんを「おじいちゃん」と呼んでいたので
祖父も3人おり、計算が合うのでヨシとしたのである。(←馬鹿)
おじさんと祖母の苗字が違うことも気にしていなかった。(←大馬鹿)
祖母の雇い主の家に一家全員で泊まりに行っていたのだから
今の「家政婦さん」感覚で考えれば、ものすごい話だ。
が、それとは違うのだ。
「女中」と言う呼び方は蔑称として時代と共に風化したが
おじさんの事を思うとその関係は、不思議な絆があったと思う。
なんというか、雇ったからには責任を取るとでもいうような男気と言おうか。
実際、おじさんは自分を孫のように可愛がってくれたし
本当の孫以上の事をしてもらった。
これが本書の空気と非常に似通うものがあり、なんともほっこりと読めた。
おじさんはもう他界してしまったが
祖母は元気な頃、形見分けで貰った杖を毎日拝んでいた。
おじさんが居ると思うと、背筋がしゃんとするのだそうだ。
歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。
年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。
秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。
2018.8.21
この書評へのコメント
- はるほん2013-12-17 21:40
>Kuraraさん
女中好きなら(なんか変な言い方だな)是非っ!
もう山のように出てきますぜ!どきっ!女中だらけの女中本です!(←???)
いえ、少々下世話な話なので書かなかっただけです。
聞かれたら書こうかなーくらいのもので。
諸々の事情で進学を諦めようとしてた時に
このおじさんが祖母づてで学資出してくれたんです。
それも自分には言わんでいいって言ったそうで
本当に最後まで知らなかったんですよ。
小さい頃から「お前は勉強が好きなんやなぁ」
とずっと言ってくれた人だったのです。
そう考えるとお粗末な頭が申し訳ないと思いつつ(涙)
他人の孫にそこまでしてくれたのかと感謝に堪えないのです。
子供には気難しい人だったらしいのですが
自分が遊びに行くと出鱈目な歌を歌ってくれたりしたのが
今でも耳に残っております。(´∀`*)クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - はるほん2013-12-17 23:26
>はにぃさん
おおっ!女中愛好家続々!!ォオー!!(゚д゚屮)屮
そう言えば一時ここでも話題になりましたね、大活字シリーズ。
どんだけデカ文字なのか気になりながらまだ見てません。
ぶっ飛んだ本は読めても、大活字は何かの壁がありますよねわかります。
>Kuraraさん
うお、そういえば…!>替え歌
この季節、達郎もユーミンもサザンも流れているのに
最終的におかんクリスマスソングが脳内にぐるぐる回るのです(ぶるぶる)
おふたりとも、おじさん褒めていただいてありがとうです!(∩´∀`)∩
こーゆー影響もあって、今もジジババに弱いはるほんなのです。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - ぽんきち2013-12-18 00:04
この本↓にも、雇い主が面倒見のよい家だったときには、身寄りのない女中さんが死に水を取ってもらうこともあったような話が出ていました。
もちろん、どこでもそうとはいかなかったのでしょうけれども。
はるほんさんの話もいい話だなぁ。
何か、もう家族みたいな感じですねぇ。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:中央公論新社
- ページ数:196
- ISBN:9784122000889
- 発売日:1974年01月01日
- 価格:600円
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